Sting Cheese Incident | Westcoast Tour | Summer 2003
2003年8月10日
String Cheese Incidentが夏のウエストコーストへ帰ってきた。2年ぶりの事である。
2002年の夏、SCIは意味不明の決断を下した結果、ついにウエストコーストへは来なかった。私はただのジャムミュージックファンであるが、その立場から見てもその決断はビジネス的にも、バンドが放つバイブレーションとしても正しいものだとは思えなかった。2002年秋、10月の末というのに野外ベニューであるバークレーのグリークシアターにブッキングした事もよく理解できない。日中でさえ肌寒いベイエリアの秋が深まる頃、雨の可能性もあるというのに、なぜ野外のショーをブッキングするのか。その2夜のショーは、結局バークレー・コミュニティー・シアターという屋内の会場へ移動された。それもショーの前日にである。このハコはグリークの半分以下の収納力しかないため、表向きは「天候不順のため」という理由で移動されたのだが、チケットの売れ行きが芳しくないことを容易に想像させもした。ショーそのものの内容も良くなかった。モダンジャスが好きな日本のジャス評論家達がエレクトリックに走ったマイルス・デイビスを酷評する時に好んで使う「スイングしていない」という言葉がピッタリあてはまるショーだった。
2002年のニューイヤーズランはサンフランシスコであったが、私はその時も10月のネガティブな体験から抜け出せておらず、12月28日のショーだけを観た。そのショーはマイケル・フランティ&スピアヘッドがオープナーで参加した事もあって楽しいものではあったが、SCIという素晴らしいバンドの行く末が心配だと言うよりは、むしろこれだけ多くのバンドが活躍しているんだからもうそろそろSCIから離れてしまい、「文句なしに楽しい」別のバンドを探した方がいいのではないか、という少々落ち込んだ印象は拭いきれなかったのだ。
私はあるメーリングリストに、「チーズには再出発が必要だと思う。方向性をしっかり定めてしばらくはそれに執着してもいいんじゃないか」と書いた。デッドの後、フィッシュではなく他のバンドでもなく、テクノにはまった私をバンドのサウンドに連れ戻してくれたのは彼等だった。だから、他のバンド以上にある種の執着心が僕にはあった。過剰分析をする必要もなく、じっと音に集中する必要もなく、ジェリー・ガルシアが言っていた「コミュニティーのための音楽隊」というコンセプトを引き継ぎ、私達コミュニティーのメンバーが思い思いのコスチュームに着飾り、両手を挙げ、笑い、踊り、仲間と一緒に短い夜を精一杯、文句なく楽しめる事が出来るバンドはそう簡単に見つかるわけではない。スピリチュアルな至上のスペースへ連れて行ってくれて、私という存在とそのあり方を啓示してくれるSTS9とは別に、手放しで「ただ」楽しめるバンドが誰にも必要じゃないのか、と考えていた。「別のバンド、別の体験」という単純な言葉が私の脳裏に長い間残っていた。
2003年2月、あるパーティーでSCIのメンバーと直に話す機会を得た。オルタナティブ・ポップやトランスで活躍するYouthをプロデューサーに迎え、ニューアルバムを録音し終わったばかりの彼等は、「String Cheese Incident」を全くと言って良いほど知らないパーティアー達に囲まれて楽しんでいたようだ。「夏はやっぱりウエストコーストをツアーしてくれないと、どうにもならないよ」と僕はピシャリと言った。彼等は苦笑いしながら頷いていた。同感だったようだ。4月に控えた日本ツアーの事も話した。彼等は心底日本が気に入ったようである。
このバンドの転機の全ては日本で始まった。そして5月、アリゾナ州セドナで夏の到来を祝うショーで、私は再出発を果たした彼等を観た。
ステージ上のメンバーの配置を変えた。ビリーがエレクトリックを手に取った。ステージ上での笑顔が蘇った。ジャムがタイトになった。ミスっても笑い飛ばし、ためらわず前進を続けるようになった。演奏する事に再び喜びを見出したようだった。
セドナの2回のショーで「もしサマーツアーを西海岸でやるのなら、もしもう一度ホーニングスに彼等と行けるのなら、行ってもいいかな」と思うようになった。デッドのフィールドトリップを体験できなかった私にとって、夏のオレゴンはチーズがそのミステリアスなサイケデリック性を体験させてくれる恰好の場所である。
4日間に渡るウォーフィールドでのショーでは、7月24日木曜日のショー以外はその全てに満足できる内容だった。もっとも、初日の24日のショーが終わった時点では正直なところ先行きが危ぶまれた事も確かなのだが。
北カリフォルニアにまだこんな過疎地帯があったのかと思わせるような、美しい山と川に囲まれた田舎町、ヘイフォーク。そして2年ぶりのオレゴンの森、ホーニングス。その体験を言葉で表現するよりも、数枚の写真がより多くの印象を与えてくれるに違いない。
ジャムと同じように、これからの展開は誰にも分からない。バンド自身にも。ただ言えるのは、ホーニングスという場所、ストリング・チーズ・インシデントというバンド、そしてオレゴンのファンを中心にした「大人達のサマーキャンプ」に集う仲間達がひとつのスペースをシェアする時、手放しで文句なく楽しめる何かが起こる、という事だけだ。
文 by wolf
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