この記事は、脳と音楽の関係についての最新研究を報告するものである。2002年にカナダのオタワ・シチズン紙に掲載された。常にチャレンジングな内容の音楽を求め、愛するジャムミュージックのファンにとっては興味深い内容ではないかと思い、医学用語には全く通じていないのを承知で紹介する事にした。「脳の主要なタスクはそれ自体を驚かせ続ける事にある」という研究者の言葉がとても印象的だ。常にニュアンス、表情、色を変化し続ける即興音楽を追究するファンはショーに行く事で自らの脳を驚かせ続けようとしているのではないか。だとすれば、素晴らしい事ではないか。訳しながらそんな事を考えた。

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「音楽と頭脳」

セックス。

チョコレート。

カフェイン。シャンパン。コカイン。

これらの中でどれもあなたの頭蓋骨の内部を始動しないのであれば、モーツァルトあるいはアラニス・モリセットはあなたの背筋を痺れさせることはないかも知れない。医者に行って脈拍をチェックするべきだろう。なぜなら人間のサバイバル本能は強烈な快楽を処理するものと同じ頭脳回路に直結しているからだ。

モントリオール神経学研究所の研究者チームは、世界最先端の頭脳マッピング機器を用いてセックス、チョコレート、さらにはハードドラッグに至るまでの誘惑に満ちた快楽を処理する頭脳神経群が同時に音楽に対しても興奮する事を発見した。

さらに脳は、花を咲かせない枝を切る事で他の枝に花を咲かせる庭師のように快楽を最大限に感じるため、鈍った神経枝を刈り込むらしいという説得力ある証拠もある。どうやら音楽は音律、リズム、調音、メロディー、短期記憶、長期記憶、そして情緒などを処理する脳神経群をつなぐ大脳皮質を高速で文字通り発電させるという、いわば脳を開花させる働きをするようなのである。

先日、脳作用を音楽的な見地からのマッピングを行っているマックギル大学の神経学者達は、音楽に反応する頭脳回路が、禁制のものを含む強い快楽感を処理するシャクトリ虫状の神経群からなっている事を確認した。しかし他の中毒性の強いものとは異なり、二日酔い、ドラッグ中毒、閉鎖寸前の動脈、性病などの心配は全くない。

聞こえが良過ぎはしないか?もし聞こえがいい話だけだとすれば、何億もの脳細胞、6億円ものMRIイメージングマシン、そしてこの世界最先端の脳神経学者全てが誤りだという事になる。

ロバート・ザトーレ博士とマックギル大学の研究員達は、人間の脳に与える音楽の影響の研究の先鋒的存在として20年間以上知識を積み上げてきた。マックギル大学キャンパスの古い石造建築の奥深く、彼等は地理学者が炭鉱をスキャンするように人間の脳を見つめ続けてきた。違うのは脳回路と脳神経群は光を帯びる瞬間をリアルタイムで捉え、追跡している事だ。

これまでこれらの研究員達と世界の研究者達は精巧なPETやMRIスキャナを使って脳のどの部分がピッチ、メロディー、ハーモニー、そしてリズムを処理するのかを探知するために生きた脳の内部を見つめてきた。その結果、その答は音楽の複雑さと構成によって変化する事が明らかになった。大脳皮質の中に、リズムやハーモニーなど音楽を構成する要素のそれぞれを専門に処理する個別の神経群があるのだ。

最も子供が聴いたり歌ったりする最もシンプルな歌でさえもが脳の両サイドの神経に駆けめぐるスパークを浴びせ、音楽の要素ひとつひとつを対応する脳の部分にリンクさせる。また、音楽は記憶が収納される部分、論理と言語を処理する部分、耳から伝えられてくる音にフィルタをかける部分、そして情緒を制御する部分など様々な脳細胞葉も刺激する。脳は調和音や不協和音を伴う音楽を異なった神経回路で処理する事さえ行うのだ。

昨年発表されたこの画期的な研究のために、ザトーレ氏のマックギルチームは驚くべき結果を生む実験を作り上げた。それぞれ音楽の分野で高度な教育を受けて来た学生10人は各々の最も好きな曲を選ぶよう指示される。その中にはサミュエル・バーバーの弦楽器のためのアダージョやラフマニノフのピアノコンチェルトNo. 3、Dマイナーなどが含まれていた。

それぞれの学生に、脳神経の発電、脳内血管の流れ、心拍、EMG、発汗、そして皮膚温度などを検出しながら好きな音楽のある部分を聴かせる。さらに他の学生のセレクション、日常生活で一般的な雑音、さらに無音状態も聴かせてみる。

その結果、彼等は好きな音楽のセレクションを聴くと文字通り背筋をぞくぞくさせたのである。彼等の生命徴候は検出時間の77パーセントもの間、上昇していた。しかし真の発見は他にあった。コンピュータに接続されたスキャナカメラが数分の1秒毎に脳のあらゆる部分を捉えたデータがそれを物語っていた。血液は脳神経が電子化学性のエネルギーの火花を散らせる部分に向かって流れていくが、その間、脳神経の他の部分における反応は比較的静かだったというのだ。

音楽による陶酔の間、脳内の血液は過去の独立した研究によってセックス、チョコレート、シャンパン、コカインなどがエクスタシーを作り出すと同じ部分に流れ込む。つまり、10もの異なった脳神経クラスターが神経を発火させ、我々にも馴染み深い快楽のぞくぞくした反応を作っているわけだ。さらに面白いのは、その間、気持ちの落ち込みや恐れなどに反応する脳細胞から血液が流出する事である。

「我々は音楽が、食べ物やセックスなど生理的に関係が深い刺激、ならびに中毒性の高いドラッグなどによる人為的な刺激に対して特別に反応するに似た喜びや他の情緒を制御する脳神経システムを使っている事を明らかにした」とザトーレ氏の論文は締めくくっている。「これは至って驚くべき事なのだ。なぜなら、音楽は生物的な生存や生殖などには絶対必要性のないものであり、薬理学的物質でもないからだ。」

ザトーレ氏によれば人間の脳細胞は誕生からこの世を去るまで、ハードウエアに組み込まれる如く音楽のために配線されているという。そして使えば使うほど失う脳細胞の量も少ない。彼は、1時間当たり400ドルで通常は患者達をスキャンするのに使用されている貴重なMRI機材の使用時間を、マックギルのオフィスから電話で予約しながら「普通の子供達はセサミストリートの歌のようなものに対してみんなごく自然に一緒に歌うという反応をするだろう」と語る。「それは非常に高度な離れ業と言わざるを得ない。子供達の頭脳は曲のテーマを認識し、彼等の大好きなテレビ番組と結びつけているという事を意味する。子供達は誰に教わるまでもなく、一緒に歌おうとする。もちろんとても正確には再生出来ないだろうが、聴けばそれと分かるほどではある。これは、読書や算数と違って誰にも教える事は出来ない。盲目の子供達が歩くことを覚えるだろう。彼等は準備さえ出来れば自分たちでやってしまうんだ。我々の神経系統にはそれが配線済みなんだよ。」

「正式に音楽の訓練を受けなかった人々の大半が歌を歌う事が出来るし、その曲のキー、楽器やリズムが変わっていても認識する事が出来るだろう。その能力は生まれつきのもので、我々の脳はそのように構成されている。それに何らかの音楽的な要素を持たないカルチャーはひとつもないんだ。」

ザトーレ氏の研究は、和声と不協和音が情緒に関係のある脳細胞群に及ぼす影響、声の特質を選択している脳の部分、メロディーの処理、音楽的なピッチやリズムを処理する脳の部分、心の目として想像を働かせたり音楽を作成する脳の部分などに関するマックギル大学での研究をさらに追求したものだ。

脳の主要なタスクはそれ自体を驚かせ続ける事にある、というのがザトーレ氏の結論だ。音楽は正にそのベストな回答と言えるかも知れない。

「音楽は知覚、記憶、情緒、運動神経の制御、全ての学習という観念と関わり合いを持っている。音楽は多くの異なった機能を首尾一貫した方法で統括しているんだ」とオルガニストとしても知られるザトーレ氏。「脳はパターンの組み立てを要求する一方で多様化も求める。だから音楽の中で大変重要な要素は驚きなのだ。驚きを得るには予期する事が前提としてある。その一方で音のランダムな連続は予期していないんだ。」

「ベストな音楽というものはそういった緊迫感を伴って演奏される。構成が無くなってしまうとランダムな音に陥ってしまう。その場合、脳神経は感心を失う。ただのノイズになってしまうからね。まだその逆で全てが予期通りになってしまうと演奏をする事もしなくなる。脳はチャレンジされる事が好きなんだよ。」

ザトーレ氏と目下モントリオール大学で脳神経精神学者として注目を浴びているイザベル・ペレッツ氏(下記の記事参照)は研究の相互援助によって協力し、「音楽の生物学的基礎」として編集された学術レポートを新たに出版した。人間が生んだ音楽の起源に関して世界的に行われてきた過去10年間の研究を要約し、特に脳スキャン技術およびそれに関連する研究によって明らかになった脳神経学的な論点に言及している。

この文書はモントリオール、トロント、ボストン、カリフォルニア、そしてヨーロッパの大学で継続的に行われている音楽的マインドに関する研究結果によってさらに増大している。科学文献に出版され、大学や医学部のウェブサイトなどでも発表されているこの文書によれば、以下のような魅力ある証拠が明らかにされている。

○ 音楽家の脳、特に7才以前に集中的な練習を始めた人は、バイオリニストの手に指令を送る脳神経部のような音楽的処理に関わる脳神経群がより大きい事

○ 音への知覚と区別は生まれる前から始まり、幼児期には親の愛情のこもった言葉や子守歌などに支援される事によって、ニューロンが言語能力よりも前に活動が活発になる事

○ 脳は音楽を処理するにあたって最も効率的な脳神経の幹線を選択し、音楽的な渋滞の原因となる部分を閉ざし、音の流れを速める部分を解放する。これらの回路がより多く使われるほど音楽的範囲や許容量が拡張される事

○ 脳の両方の半球が音楽を処理する機能をシェアしており、重要な脳神経のブリッジであり、特殊化された部分を複雑な音楽データを高速に送る脳梁によって両半球が結合されている事。最近の研究で8才から訓練を受けた音楽家達は、この1億もの神経系列が通常より15%も大きい事が明らかになっている

○ 音楽は通常使われていないか未発達の数百万にも及ぶ脳神経を活発にさせる特殊な燃料として作用する事。脳がこの音楽的な燃料を消耗する事により、満足感や時にはエクスタシーを生む化学物質を生む。近年の研究で合唱団の歌手達が演奏会の後でその化学物質が多量に発生しさせている事が分かっている

「PETやMRIによるスキャンはここ20年に使えるようになったものだ」とザトーレ氏が言う。「これらの機器は、我々が知覚し、思考し、行動し、理論をたて、記憶する為の脳のメカニズムに関する研究、つまり認知脳神経科学の分野全般に大きな革命をもたらしたものなんだ。普通の人の脳作用が手に取るように分かるようになったのだ。それ以前は脳障害を持つ人々の研究に頼る事しか出来なかった。」

人間が音楽を処理する際にどの脳神経が使われるかを問われると、ザトーレ氏は彼のいかにも科学者の慎重さで暫く考えたあと、笑顔を放ってこう言った。

「首から上、全部だ」と。

ザトーレ/マックギル大学の研究の詳細は以下のウェブサイトで見る事が出来る。

http://www.zlab.mcgill.ca


モントリオール大学の脳神経精神学者、イザベル・ペレッツ氏による10年以上もの画期的な研究は音楽にとって重要な脳神経回路をマップするのに貢献している。その中には病気、トラウマや脳手術によって障害を持つ患者達に関する研究が多く含まれている。以前手術によって脳皮質の一部を取り除かれた65人のてんかん性患者のグループに様々なメロディーを聴かせ、音楽のキーと連続した音の高低に関する知覚の変化を評価した。この実験で右脳の前方皮質に手術を受けた患者はキーとメロディーの高低の判断に障害があり、左脳に手術を受けた患者はキーの変化に対してのみ障害がある事が明らかになった。

他のテストではピッチの認識は主にHeschl's gyrusと呼ばれる脳の部分で行われている事が分かった。また、「青きドナウ」などのワルツと「When Johnny Comes Marching Home」などのビートの違いを判断するリズムの知覚障害に関するテストでは障害が認められず、リズムは脳の全域で処理されている事が確認された。また、とkに感心深い実験の数々でペレッツ氏は、言語能力を含む知的タスクに関しては優秀であるが子供でも真似の出来る単純なメロディーを理解または歌う事が出来ない人々を研究した。この症状はamusiaと呼ばれ、何千人もの人々がその症状を持っていると言われている。

ペレッツ氏と二人の博士課程学生は音楽がなんの形体も示さないただのノイズとしか聞こえないという11人の研究対象者を選んだ。研究者は他の認知障害、聴覚障害、そして幼児期に音楽にほとんど触れる事の無かった人々を研究対象からは除いている。残った研究対象者達は知的で、高い教育も受け、言語表現に優れ、聴覚も発達している人々であった。彼等はみんな以前に音楽を学ぼうと志した事はあるが失敗した経験がある。

ペレッツ氏は過去一世紀に渡って心理学者を困惑させた疑問を解こうとしていた。amusiaは脳神経回路の損傷によるものか、或いは音楽の訓練や音楽に接する機会に恵まれなかったためか?

脳スキャンのデータと音楽による刺激結果を比較する事によって、ペレッツ氏はamusiaの原因が、音楽的ピッチを処理する双頭脳葉の内部で回路の支障によるものであることを発見。この部分は聴覚脳皮質と呼ばれ、数百万の脳細胞が耳と脳葉部から送られてきた音の選択を複雑かつ高質な処理で行うものである。

様々な音のいくつかは、母音と子音の差違を探知するように言語として処理され、文の終わりにある表現的なピッチが上がる事でそれを質問として認識する。しかし別の脳細胞がメロディーにあるピッチの高低を処理し、さらに短期記憶または長期記憶にこれらの音程を持続させる別の脳皮質群にその情報をリレーする。

聴覚脳皮質の回路にある障害を孤立させる事によって、ペレッツ氏の研究はなぜ音痴の人に歌を認識しにくいかを明らかにしたのだ。メロディーは彼等の記憶には届かず、連続した音程の高低はシャワーの中で歌を歌う時に再現するためにそれを存続させる事が出来ないのである。この事はamusiaが失読症に見られる解読障害のような遺伝性の病癖であることを示唆している。彼女の研究対象者のほとんどが家族内に同じ症状を持つ人達がいる事が分かっている。

しかしその逆にペレッツ研究は調和とメロディー、そして時にはエクスタシーに至る感覚が生み出される脳細胞群がどこにあるかも正確に解明したわけだ。

「音楽は大部分の人間には自然に感じられるものなのです」とペレッツ氏。「しかし、まれな例としてある特殊な人にとってはリズム、メロディー、コードは全く認識不可能なのです。私達が出会ったこれらの人々について興味深い点は言語には全く影響がないという事です。つまり、脳の内部には音楽的知覚を専門的に処理している部分があるという事を意味しているのです。」

(訳 by wolf

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